寂しいと言ったところで
もう、貴女との関係が元に戻ることはない。
おれは、かうして夕餉を喰らってゐるが、
それは、貴女のゐないことでぽっかりと穴があいた胸奥を
埋めやうとしてゐるだけに過ぎない。
ゆっくりと時間は流れながら、
俺は、独り身の侘しさに
今更ながら感じ入って
貴女のゐない現実を凝視してゐるのだが、
過去が思ひ出に収斂してしまった現在に、
現実の重さを量ってゐるのか
貴女がもう俺の傍にゐない軽さが妙に哀しさを誘ふのだ。
人一人の存在がこれ程恋しいとは、
おれも歳を食っちまったのだらう。
――へっ。
と、自嘲の嗤ひを発しながら、
かうして夕餉を喰らってゐるのだが、
その寂しさは全く埋まらぬのだ。
そんなことは当然なのは知ってはゐても、
ついつい間隙を埋めようと
心に空いた間隙をものを喰らふことででしか
埋められぬ侘しさに酔ふやうにして、
ナルキッソスの如く俺は自分に酔っ払ふのだ。
さうして、貴女がゐないこの現実を遣り過ごすのだ。
スピーカーからはアストル・ピアソラの情熱的な曲が流れる。
既に貴女との関係が始まったときから
こんな日が来るのを予感してゐたおれは、
きっと貴女のことをちっとも愛しちゃゐなかったのだ。
自業自得とはいい言葉だ。
そんなことをつらつらと思ひ浮かべながら、
俺は只管、夕餉を喰らふ。