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刻印

何時も全身に電気が走るやうな痺れに悩まされながらも
おれはおれの存在におれといふものを刻印す。
このやうに刻印せねば、おれは正気を失ふかもしれぬ。
それだけ追ひ詰められてゐるおれは
一時もおれを見失ってはならぬのだ。
例へばおれがおれを見失った途端、
おれは邪気に満ち満ちた存在に成り下がり、
おれを早速おれをむさぼり食ひ出すに決まってゐる。
その証拠におれはおれが心底嫌ひだ。
これに対して何を甘っちょろい事をほざいてゐると
大いに批判を受ける筈だが、
それでもおれはおれが大嫌ひなのだ。
だから、尚更、おれはおれにおれといふものを焼印を押すやうに刻印する。
さうしてやっとおれはおれが何ものなのか多少なりとも理解出来、
かうしておれはやっとのことおれの事を独白出来るのだ。


しかし、刻印された側の魂は、堪ったもんぢゃないのは解るが、
仮令、おれに魂といふものがあるとすれば、
其処におれといふものを刻印し、
死後までも尚、おれはおれとしておれを呪ひながらも
刻印された箇所を嘗めるやうに吹き付ける朔風にじんじんと痛みを感じ、
さうしておれはおれとして奮い立つ。
その気概なくして、今のおれはおれとしてこの殺伐とした大地に屹立する気力も湧いて来ず。
心身共に疲弊しきったおれにとって
此の刻印のみが唯一頼れるものであり、
此の刻印なくして、
おれがおれであるといふ存在証明としてこれ以上のものはない。


哀しい哉、おれはおれを避けて通れず、
況してやおれはおれを遁れて行くわけには行かぬ。
夜中に吹き付ける朔風は
ひゅーっとおれを嘗め尽くしては、
えへら、とおれの刻印の痕を見て嗤ってゐる。
だからこそおれはおれを見失ってはならぬのだ。

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