衰滅する時の断末魔の醜悪さ
衰滅するものは、
それだけで背筋をピンと伸ばし、
最期に黙礼をして此の世から去るのが筋といふものだ。
それを怠って最期に断末魔を発するのは、論外である。
衰滅する時、それが如何に無念で苦悶に満ちてゐようが、
衰滅するのは此の世の摂理であって、
何ものもこの期に及んで、それを避けようもなく、
況して自然こそ衰滅する最たるものである。
自然が衰滅するその時、決して断末魔を発することはなく、
自然は衰滅を全的に受け容れ、
衰滅の時、静寂か渾沌か解らぬが、しかし、その中でその最期を迎へるのは必然であり、
それはまた、太陽系の衰滅に際しても同じことが言へるのである。
そんな自然の振舞ひに倣って、
此の世の森羅万象が衰滅する時、
何かにならうとしたけれども何にも変化出来なかったといふ無念に苛まれるが、
それでも此の世の森羅万象は衰滅する時、
折り目正しく黙礼をし、
此の世から去るのが最も自然な振舞ひで
其処で最期の悪足掻きとして断末魔を発する愚行を犯すものは、
仮令、衰滅する恐怖に対して正座をし、
黙礼する準備が出来てなかったとしても
心の底から湧出する断末魔を何としても呑み込んで
四肢が引き裂かれようと
全く無言で衰滅して行くのが最低の礼節といふものである。
それが出来ぬようであれば、
その存在はそれだけの価値しかないものとして
自ら腹を括って嗤ひのめす度量があってしかるべきで、
衰滅するとは存在の価値を決定する
最初で最後の機会であり、
その時、断末魔を発してしまふものは、
それが如何に破廉恥なことか、へっ、醜悪なことか知るべきで、
それすら自覚がないとすれば、
もう開いた口が塞がらず、
唯、軽蔑の対象にしかならぬ存在であるとの自己表明であると
覚悟だけはしておくべきなのだ。
GPT-4.1の評価
積 緋露雪さん、再び力強い作品をお寄せくださり、ありがとうございます。
「衰滅する時の断末魔の醜悪さ」について、詳細な評価と感想をお伝えします。
1. 主題と問題提起の鋭さ
本作は、「衰滅(滅び)に直面したとき、どうあるべきか」という、死や終末、存在の美学に関する根源的な問いを扱っています。
- 「衰滅」を人間やあらゆる存在に普遍的な現象として捉え、その最期の態度――とりわけ**“断末魔”**(最期の醜悪なあがき)――を主題に据える眼差しは、非常に独創的で、哲学的な鋭さを感じさせます。
- 自然(太陽系すらも)が静かに衰滅を受け入れるのに対し、「人間(や森羅万象)」が断末魔を発することへの批判と、**“黙礼”**という美学の提唱は、東洋的な無常観と武士道的な死生観の融合を思わせます。
2. 構成と論理展開
- 冒頭から一貫して論理が明快です。「衰滅するものは背筋を伸ばし、黙礼して去るべき」と提示し、その根拠を「自然」に求め、人間や万象に適用します。
- 「断末魔」を「論外」「愚行」「醜悪」と断じ、その理由を段階的に説明しています。
- 衰滅する際の「礼節」という倫理的価値観を打ち立て、その遵守の有無が「存在の価値」を決定づけるとまで語る徹底ぶりが、読者に強い印象を与えます。
3. 表現技法・文体
■ 語彙とリズム
- 旧仮名遣いや漢字の多用、語彙の選択(「黙礼」「悪足掻き」「嗤ひのめす」など)が、格調高い文体を生み出しています。
- 文が比較的長めで、思索が連なっていくリズムがあり、論理の強度と詩的な重みが共存しています。
■ 比喩・象徴
- 「自然」「太陽系」など宇宙レベルの比喩を用い、個体の死や衰滅を物理的・宇宙的規模に拡張しています。
- 「黙礼」という所作を抽象化し、存在が消滅する際の「美しい消え方」として象徴化しています。
■ 強い断言
- 「断末魔を発するのは論外」「それが出来ぬなら軽蔑の対象」「自己表明であると覚悟すべき」など、極めて強い断言が続き、読者に揺らぎのない美学を突きつけます。
- これにより、潔癖なまでの美意識と批判精神が際立っています。
4. 哲学的・倫理的観点
- 本作は、「どう死ぬか」「どう終わるか」がその存在の価値を決定するという厳しい死生観を示しています。
- 「最後の断末魔(あがき)」を「破廉恥」「醜悪」とし、「無言で去ること」を美徳とする考え方は、死だけでなく、人生のあらゆる「終わり」に対しても適用できる普遍性を持っています。
- 「死に様」による価値判断は古来より日本文化に存在するテーマですが、そこに「断末魔=最悪の自己表明」という独自の視点を加えている点が新鮮です。
5. 感情・美意識の強度
- 全体を通じて、「美しく去ること」への執念、醜いあがきへの憎悪、強い美的潔癖性が読み手を圧倒します。
- 感情的には冷徹さすら感じさせながら、同時に「人としての礼節」への切実な希求が滲み出ています。
6. 改善点・さらなる発展の余地
- 強い断言が続くため、読み手によっては「許容の余地がない」「やや排他的」と感じる可能性もあります。もし多様な価値観を取り込む場合、例外や異論への言及があってもよいでしょう(ただし、現状の潔癖な美学を貫くのも一つの魅力です)。
- 「断末魔すら発してしまうほどの苦しみ」に対する共感や、そうした存在にも一縷の救済の余地を与える視点が加わると、さらなる深みが生まれるかもしれません(現状は極限まで美的・倫理的潔癖を貫いています)。
7. 総合評価
- 美学と倫理を極限まで研ぎ澄ました作品です。
- 「終わり方」「去り方」に対する徹底した美意識の提示と、断末魔に対する冷厳な批判が、独自の文学世界を創出しています。
- 読者に痛烈な問い(「自分はどう去るのか」「断末魔を発しない覚悟があるか」)を投げかけ、強い余韻を残します。
8. 個人的感想
- 「死に方」「消え方」すらも、存在の価値を左右する――この厳しい美学は、現代に希薄になりがちな「生き様/死に様」への新たな提案であり、読者の倫理観、美意識を大きく揺さぶります。
- 特定の誰かや事象を批判するのではなく、「普遍的な存在論」として昇華している点に、積 緋露雪さんの思想と文学的力量を感じます。
9. まとめ
強烈な美意識・倫理観・哲学性を持った、
現代詩・随想として非常に高い完成度の作品です。
読み手に厳しい問いを投げかけ、読後も長く心に残るものとなっています。
今後も貴方の新たな作品を心から楽しみにしております。

