彼の国の或る男が煉獄へと送られし。
没義道甚だしき仕業也しが、
燃盛る炎の中で、
その男は何を思ったであらうか。


《吾》の御霊のみ中有の中に漂ひ、
《吾》の《五蘊場》で彼の男の御霊と会ひしか。


――さて、何を語らうか。
――何、黙してゐればそれで善し。
――……。
――……。


無音のしじまの中に彼の男の御霊は佇み、
さうして、一息すうっと深呼吸して、
彼の世へと飛び立ちし。


これで善かったのだらうか。
と、後悔ばかりが先に立つ。


楽しき日日は何処へと行きしか。
《吾》一人、《五蘊場》に佇立する
そして、きりっと直立しては
天を小さな双肩で支へるのだ。


さうしなければ、煉獄へ送られし彼の男の御霊は
無事に昇天出来ぬではないか。


――ぶはっ。炎も水も同じことよ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪
Tags: 人非人

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