――それ、苦しめ。お前のゐる場所は此処ではない。
さう言って「そいつ」は、
――ふはっはっはっ。
と哄笑したのだ。


何かが《吾》の背に宿ってゐて、《吾》の視界の境界辺りでちらちらと姿を現はしては「にまり」と醜悪な笑みをその相貌に浮かべるのだ。
さうして、「そいつ」は《吾》を鞭打つのだ。


――何を持ってお前は《吾》を鞭打つのだ?
――そんな事はお前は既に知ってゐるではないか? さうだ。お前が此の世に《存在》してしまってゐることが既に「罪」なのだ。
――《存在》が「罪」? 「原罪」と《存在》は先験的に背負ってゐる?
――否! お前のみの《存在》のみが「罪」なのだ!
――私のみ?
――否! お前が名指す《吾》さ。


さうして、「そいつ」は再び《五蘊場》の闇に消ゆる……。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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