不意に襲はれた眩暈に
「私」は永劫を見たのだ。
時間は吃驚して逆転し、過去が未来に、未来が過去へと転回し、
「私」の頭蓋内の闇たる《五蘊場》には
《吾》が漸く《吾》にしがみ付く意識と無意識の狭間で、
何処かで見たかのやうな《世界》が表出す。
しかし、それもたまゆらの事で、
《吾》はあっと言ふ間に闇に呑み込まれし。
残るは無音の「死んだ《世界》」か。
しじまの中で「私」は何とか声を上げ、そうして消えゆく意識に
さやうならを言ったのだ。
しかし、「私」は何にさやうならを言ったといふのか。
さうして、「そいつ」が現はれて、かう呟いたのだ。
――お招き有難うございます。
はて、「私」は「そいつ」を招いた事は今までなかった筈だが。
そもそも「そいつ」は何《もの》だったのか。
消えゆく意識に《吾》は溺れ、
そうして入水するやうに
「私」は白き白き深い闇に陥落す。