其処には薄ぼんやりと今にも闇に隠れそうな《存在》の実相が
仄かに見出だされ、《存在》は昼間の作り笑顔を已めていい時間へとやって来たのだ。


――ほら、これこれ。これが「私」だ。


と、薄明の中、鏡に見入る《存在》共は
己の本性が漏れ出てしまふ薄明の中で、
奇妙に蠕動する《吾》と言ふ《存在》の本音を見ては、
――ぶはっはっはっ。
と哄笑するのだ。


そして、《存在》共はすぐそばまでやってきている闇の時間に没入するべく、
《吾》に対して昼間には隠さざるを得なかった本性を
ちょろちょろと出してみては独り言ちてゐるのだ。


――ほらほら、これが「私」なの。どう? 「私」は《吾》に変貌していいかしら。
と、一人の少女が薄明の中さう呟いたのだ。


と、そこでたまゆらに真白き精霊がその少女から飛び立ち、
さうして一つの命が途絶えたのだ。


――やっと「私」は《吾》になり得、さうして、地獄へ行くのかしら?
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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