此の渺茫たる虚無は何処からやって来たと言ふのか。
確かに無限を喰らった筈なのだが、
どうしやうもない虚無を埋めるには
無限を喰らったくらゐでは
埋めようもないのだ。


ならば、何を喰らへば
多少なりとも肚は膨らむのかと
自問するまでもなく、
此の《吾》を丸ごと喰らへば
少なくとも上っ面の満腹感は得られるのだが、
そんな事は逆立ちしても無理なのだ。


徐に大口を開けて欠伸をしてみたが、
何だかとてもをかしくて、
吐く息と一緒に無限は私の肚から漏れ出てしまった。


そして、眼前には涯なき無際限の《世界》が漫然と拡がってゐたのだが、
それを見た事でわなわなと震へ出したのは、
拙い事には違いなかったが、
でも無限はそもそも限りある《存在》には
恐怖の対象でしかない。


――ちぇっ。
と、舌打ちしてみたのだが、
その虚しい音が蜿蜒と
無際限の《世界》にいつ果てるとも知れぬ反響を繰り返し、
《吾》のちっぽけな有様に抗するやうにして
唯一人この無際限の《世界》に直立したのだ。
さうして崩れ落ちさうな己の心持を何とか支へる。
積 緋露雪

物書き。

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