《吾》の内部に棲む餓鬼は何時も腹をすかしてゐるが、
しかし、餓鬼は《吾》が何を喰っても一度たりとも満足した事はない筈だ。
何に対して飢ゑてゐるかを、餓鬼はそもそも知らぬのだ。
ふん! 嗤ってゐるぜ、其処の餓鬼が。
「影でも喰らってゐろ!」
と、嘯く《吾》は、
餓鬼に対して知らぬ存ぜぬを決め込むのだ。
それと言ふのもそれが餓鬼に対する最上のもてなしだからだ。
餓鬼は放っておいても
食ひ扶持に困ることはない。
何故って、《吾》が《存在》する限り、
餓鬼はウロボロスの如く《吾》を喰らってゐれば
それで手持無沙汰は凌げるからな。
へっ。また嗤ったぜ。
――この餓鬼が! 早く《吾》を喰らって呉れないか。
さうすれば、《吾》は少しは気が楽になるのに。
《樂》は此の世の陥穽だった。
《樂》の上に胡坐を舁いて座ってみたが、
その居心地の悪さといったならば、
名状し難き不快なのだ。
しかし、不快は物事を変貌させる原動力になるから《樂》は已められぬのだ。
――ちぇっ、不快は餓鬼のげっぷだぜ。
しかし、げっぷはげろげろげ、だ。
さうして《吾》はやっとの事、呼吸が出来るのだ。