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寂寞

此の寂寞とした、何とも表現し難き感覚は、何なのであらうか。
――それ。
 と其処に石ころの一つを投げ入れても、カランコロンと虚しい音が響くだけなのだ。
しかし、その寂寞とした其処は、吾は決して見放すことは不可能なものなのだ。
何故って、其処は此の胸に外ならないから。
それでも吾は何度でも其処に石ころの一つでも投げ入れて、
カランコロンという虚しい響きをぢっと聴かずにはをれぬのである。


さうして、吾は、やっと此の世に屹立する事が許され、
また、吾はその虚しい響きで以て吾の存在を確認するのだ。


その響きは、しかし、虚しいものでなければならない。
でなければ、吾は直ぐに吾に飽きてしまって其処で大欠伸をするのが関の山なのだ。
それは、シシュポスに比べれば、何の事はない、簡単に自己確認が出来ちまふ代物なのだ。
つまり、吾は絶えず虚しい響きに聞き耳を欹てる事で、
吾が虚しいものとして納得出来るのだ。
さう、吾は何としても虚しいものでなければならぬ。
吾が虚しくなければ、途端に吾は吾自身に対して猜疑の眼を向け、
無理矢理にでも吾は吾を虚しいものとして把捉したがるのだ。


その傍では、お道化たものが、つまり、それも憎たらしい吾に違ひないのであったが、
吾を嘲笑ふ吾もまた、その虚しい響きに安寧を感じてゐるのだ。
ならば、吾、立たんとす、シシュポスの如くに。
さうして胸奥に石ころのカランコロンといふ虚しい響きが永劫に残るのだ。


何を見る闇間に浮かぶ月明かり其は絶望の写し鏡か


何悩むそんな吾の惨状に連れない月はただ嘲笑ふのみ


月を見て哀しみに一人煩悶する夜更け

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