浅川マキの歌が脳裡に流れる中、
仄かに揺らぐ吾の在所に
吾既に蛻(もぬけ)の殻


「揺れちゃった」といふ歌詞に
吾もまた揺れちゃったのだ。
陽炎が揺らぐやうに
吾から飛翔する吾の「本質」は
また、本質であることをはたと已めて
吾手探りで吾を求める
さう、既に吾盲人


何処に消えしか
その吾は果たして吾と呼べる代物か


「はっ」と自嘲の嗤ひを吐き捨てるやうに
天に唾するこの吾は
不意にさようならを言ふのであった


「バイバイ」


さういって此の世を去ったものに対して
吾は吾と何時迄言へるのか
そんなもの捨てちまえ、と君は言ふが
吾は吾なるものをどうしても捨てられぬのだ


さうして死後もこの世を彷徨ふか
それが吾の運命ならば
ギリシャ悲劇の主人公になった如く
悲劇の運命を微塵もずれずに
その生を生き切るのか


「嗚呼」と嘆く前に吾独りで時間を貪り食らふのだ
さて、その時に現はれしものを何と呼んだらいいのだらうか






喪服にて秋月夜のみ輝きし


漆黒の闇に消えにし吾が影は自由なる哉聞くはその跫音のみにて
積 緋露雪

物書き。

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