顫動
時空は絶えず顫動し
それに伴ひ俺を俺足らしめる時空も顫動する
嗚呼、其処に飛び立つのは何ものなのか。
さうしてかそけきは音を立てて、俺の影から何かが飛び立ったのだ。
これをドッペルゲンガーと言ふのかどうかはいざ知らず、
ただ、俺の影が最早俺の手に負へぬものとして
此の世に存在してゐる事だけは確かなのだ。
仮令それがドッペルゲンガーだとして
それが俺の死の予兆に過ぎぬとしても
それはそれで祝杯を挙げるべき事象に違ひない。
さあ、祝祭の始まりだ。
俺は俺の死を祝ふべきものであり
さうでなければ、一体俺の存在は何なのか。
死は即ち祝祭の始まりなのだ。
これ以上、楽しいことはない。
生に纏はる苦悶は全て捨て去り、
何ものかが確かに俺の影から飛び立ったのだ。
それはかそけき顫動をし、
さうして今も尚、俺の頭蓋内で顫動してゐる。
先に逝ってしまったJAGATARAの江戸アケミが嗤ってゐるかな。
高田渉がまだ、生ギターを抱えて吟遊詩人さながらにフォークソングを歌ってゐるかな。
将又、浅川マキが黒づくめの衣装を纏ひ、
これまた吟遊詩人の如くクレイジーな歌を歌ってゐるかな。
死者に頭を垂れて、俺は俺の疑似死に対して憤懣をぶちまけるべきなのか。
そんな事はない。
俺の疑似死に対して、俺は祝杯を挙げ、毒を呷るのだ。
そして、それを一気に飲み干し、彼の世の幻視の中で狂ひ咲きすればいい。
それが、唯一俺に残された快楽の正体らしいのだ。
嗚呼、俺の影から何者かが飛び立ち後には顫動する時空のみが残ってゐる。