さうしろと言ふ俺がゐて、
さうしない俺がゐる。
どちらも俺に違ひないのであるが、
其処には克服出来ない軋轢があり、
その軋轢は黄金の壁の如く俺の頭蓋内の五蘊場で聳へ立つ


その軋轢を跨ぎ果せると高を括ってゐてる俺もまたゐて、
何とも複雑な俺が姿を現はすのだ。
しかし、その俺を単純化して俺として捉へてはならぬ。
俺は俺の内部に何人もゐるのが通常で、
その軋轢、若しくは葛藤に躓く無様な俺がゐるのだ。


さうして立ち上がる俺が出現するのをぢっと待ちながら、
俺と言ふ混沌に俺は俺を見失はずにゐると言ふ矛盾に、
否、不合理に絶えず晒されながら、
俺は俺として内部に憤懣分子どもを抱へつつ、
俺は俺として屹立するのだ。


その時、哄笑する俺が必ずゐて
また、俺を正当化しようとする俺がゐて、
その軋轢は克服し難いほどの底なしの溝があるのだ。


深淵とそれを名付けたところで、何にも変わる事はないのであるが、
しかし、名前を与へて一度名付けると五蘊場で手ぐすね引いて待ってゐる異形の吾が
雑食性のその本性を剥き出して食指を伸ばしてゐるのだ。


食欲旺盛な焼尽し尽くす異形の吾に睨まれた俺は、
一歩後退りして、五蘊場の中で身構へるのである。


何がさうさせるのか。
俺には異形の吾がゐて、
それの扱ひに困ってゐるのは確かであるが
だからといって、この無間地獄から逃れる術は俺にはない。


軋轢は軋轢としてそのままに俺の五蘊場に聳へ立たせて、
そいつとの共存を考へた方が身のためか。
また、底なしの穴として俺の五蘊場に存在させたままに
俺は俺として此の世にある事の不合理を
生きながら躱すと言ふ偽善を
もう存在してしまった以上、
未来永劫に亙って行ふのが身のためか。


何故に俺が存在してしまったのかと言ふ愚問を携へながら
俺は俺として此の世に屹立するのだ。
さうして、俺における軋轢、若しくは葛藤は
解決させずに今も尚、飼ってゐる状況が全くをかしな俺の有様なのだ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪
Tags: 軋轢

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