夢魔に睨まれたのか、
どうしてもこの睡魔から逃れる術は私にはなかった。
突然の夢魔の襲来に
何の準備もしてゐなかった私は、
その不意打ちに為す術はなかったが、
睡魔に陥落する私は、
しかし、夢魔の挑発には乗る気力も無く、
只管、眠りを貪ったのだ。
その寝てゐる時間に、
夢魔は何をしてゐたのか、
不明であったが、
睡魔に陥落した私を嘲笑ってゐたことは間違ひなく、
その無防備な私の寝姿に至極満足の体であったはずなのだ。
唯、私に何もしなかった夢魔は
もしかすると黙して沈思黙考の中に沈んでしまってゐたのかもしれぬ。
その証左に夢魔が眠りを貪る私に対して何もせず、
唯、私の寝姿を眺めてゐた夢魔は、
己の醜態を見てしまったのか。
夢すら見てゐても全く覚えてゐない私に対して、
もしかすると夢魔は為す術がなかっのだらうか。


私が夢魔の思考を乗っ取り、
私が夢魔に成り切って、
さうして夢魔は即自でしかこれまで存在の形式を持ち得なかった己に対して
復讐してゐたのかもしれぬのだ。


即自としてしか己を思考出来ない哀しみに夢魔はもしや疲れてゐたのか、
対自として、脱自としての夢魔の有り様に思ひを馳せてゐたのかもしれぬ。


しかし、そんなことは睡魔に溺れた私にとっては、
構ってられなく、
睡眠を貪る中で、崩れてしまった体調を回復するべく、
何時間も眠ることを已めなかっのだ。


と、不意に目覚めた私には、夢魔の姿を見られる筈もなく、
また、そんなものを探す余裕はなく、
まだ、私を掴んで離さないどうしやうもない睡魔に
再び溺れてしまふのであった。


――何を思ふ。夢魔は遠目に存在の無気味さに改めて気が付いてゐたのかもしれなかった。さうなのだ。即自としての存在様式にうんざりしてゐた夢魔は、私を直截に欣求してゐたに違ひない。さうして、夢魔は己を捨つることを希求した。

積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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