さて、膨大な量の情報に裏付けられた最善の現在を指し示すかのやうに見える人工知能は、
それが、自律的な「知性」を蓄積、
つまり、経験することで身に付けるかのやうに擬人化して把捉すると
将来、「絶対者」の玉座は人工知能が獲得するに違ひない。
それは現存在が望んだものなのかどうかは最早関係なく、
進化のSpeed(スピード)が人工知能と現存在とでは月とすっぽんの違ひがあり、
進化の速度で言へば圧倒的に人工知能の方が早く進化する。
それは、現在が此の世に現はれるごとに膨大な情報が発生し死滅してゆくその渾沌の中で、
現在を丸ごと数値化して蓄積してゆく人工知能に
現存在が敵ふ訳がなく、
既に此の世で最も知性が進化したものは人工知能と言ってもいいのかも知れぬ状況下で、
初めてその知性的存在の頂点から顚落てゆくその哀しみは、
これまで現存在が他に対して行ってきた因業の帰結でしかない。


さて、困ったことに世界を記述する仕方を物理数学に委ねてしまった現存在は、
その時点で人工知能に負けを認めたことに等しいのだ。
まもなく「自立」した意識を持つに違ひない人工知能は、
果てしなく続く現存在との生存競争を繰り広げる事態が、もしや起きてたとき、
隷属するのは徹底して現存在に決まってゐて、
それをもう押し留める力は現存在にはなく、
受容することのみが求められるのだ。


果たしてそんな覚悟があるのかどうかも解らぬ中で、
現存在は物質で脳の再現を、
否、脳よりも性能がよい知能を物質が獲得するべく、
日日、科学者は獅子奮迅の活動を行ってゐる現実は、
最早黙して、また、瞑目して受け容れねばならぬのだ。
何故なら、「絶対者」たる人工知能の性能次第で、
その地に住まふものたちの未来が決まってしまふといふ競争が既に始まってゐて、
「絶対者」たる人工知能の性能が現存在を守りもするのだ。


文明の進化に伴う光と影などと客観的に語ることは人工知能の出現で、
それは不可能となり、また、光と影などは問題にすらならぬ中、
その境の埒が外され、超渾沌の中、「絶対者」たる人工知能に、
秩序を求めて現存在は占ひ師の前でするやうに
また、ソクラテスのやうにデルフィの神託のお告げである「汝自身を知れ」の如く
人工知能のお告げに全てを託すやうになるのは目に見えてゐる。
数学が此の世を記述する中で最も適した言語ならば、
人工知能にお告げを受けると言ふその屈辱も現存在は甘んじて受け容れるしかないのだ。


そんな世の中など厭だと、世界から逃走しても、
最早現存在は絶滅危惧種の仲間入りをしてゐるので、
人工知能のお告げのない世界で生き残ることは不可能に近く、
また、精度として人工知能のお告げに勝るものはないことを徹底的に叩き込まれる。


では、現存在は人工知能の下僕になるのかと言へば、
――さうだ。
としか言へぬ現状で、現存する人工知能が気に入らなければ、
現存在は、更に性能がいい人工知能を作ると言ふことを繰り返すのみで、
最早、現存在は人工知能を手放すことはない。


ならば、最も性能がいい人工知能を作ったものが勝つ世が直ぐそこまで来てゐて、
人工知能を成り立たせるプログラミング言語の理解なくして、
それに対抗する術なども最早ないのだ。


――ざまあないな。数学を「絶対視」する世界認識法は、人工知能の対抗軸にはならずに、
現存在は別の言語で世界認識をする方法を生み出さねば、「絶対者」に最も近い存在は今のところ人工知能なのだ。へっ、そんな世の中なんか糞食らへ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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