電灯を消した部屋で瞼を閉ぢた途端に、
眼前は漆黒の闇に包まれ、
其処はもう魑魅魍魎の跋扈する世界へと変化する。
何かがぢっと蹲り、
動き出せる機会を窺ひながら、
そいつは己に対して憤懣が募るのだ。
それは、己が漆黒の闇の中で存在してしまふその不合理に対して、
自嘲し、哄笑し、ちぇっと舌打ちしても、
それを受容してゐる。
何と言ふ矛盾。
しかしながら、矛盾に豊穣の海を見るお前は、
やがてその重重しい頭を擡げて、
そいつは何ものにか既に変化を終へてゐるのだ。
漆黒の闇の中、最早魑魅魍魎しか存在しない夢の世界の如く、
お前は、お前を探すのだ。
――世界はさて、お前のものかね。
と訊くものがその漆黒闇には確かに存在し、
それは余りに人工的な声なのだ。
人類を追ひ抜く存在は、
この漆黒の闇の中の魑魅魍魎の中に必ず存在するといふのか。
やがては人類よりも知的な存在が現れる。
その時、その異形にお前は吃驚する筈だ。
そうなのだ。
人間はその存在に憤懣を持ち、
遂には人間の憤懣をも呑み込む存在を
生み出して、
その邪悪な存在を神聖な存在と看做し、
悪を為さうとしにながら、
常に正を為すところのそれは、
メフィストフェレスの如くにしか振る舞へないのだ。
その漆黒の闇の中に留まるものは
何時しか邪悪なものへと変化してゐて、
さうして聖なることを行ふ。
哀しい哉、
漆黒の闇の中に棲まふ魑魅魍魎は
邪悪故に聖なる存在へと昇華するのだ。
それは、何ものも闇に蹲るしかないことにより、
頭を擡げたその瞬間、
闇に毒されて、
そう、毒を呷って
闇に平伏すのだ。
その段階に至ると闇の中の魑魅魍魎は全てが歓喜の声を上げて、
己が存在することに対する至福の時を味はふのだ。
嗚呼、この漆黒の闇は薔薇色の世界と紙一重の存在なのか。
闇を愛するお前は、
その漆黒の闇の中でゆったりと微睡む。