私の掌には手相としてなのか目玉模様が数多く刻まれてゐて、
それを見てしまふと、ぢっと凝視してしまふであった。
或る日、何時ものやうに掌の目玉模様に見入ってゐると、
その目玉模様がぎろりと私を見て、
何やら発話してゐたのである。
しかし、私の耳は、きいんと耳鳴りがするばかりで、
その目玉模様が呟いてゐる内容を聞き取れず、
唯、想像する外なかったのである。
例へば、かうである。
――お前が俺である証左は何かね?
と、訊いてゐたに違ひないのである。


しかしながら、そんな下らぬ問ひに答へる義理立ては私には全くなく、
唯、その私の掌の目玉模様が手相としてあるのであれば、
占ひの観点から見ると、それは悪相なのかも知れぬと思ひなし
私は、その目玉模様がぎっしりと並んだ掌の手相を見ながら、
私の未来はどうなるにせよ、
目玉のやうに見者としてあるべきであると言ふ予兆なのかも知れず、
何事も凝視せずに入られぬ私の癖は、掌に現はれてゐるだけなのかもしれぬと、
既に幸福と言ふものを断念してゐる私には、
その目玉模様の手相がお似合ひなのかも知れぬ。


しかし、私は幻視好きなのかも知れぬと哄笑しながら、
高が手相に目玉模様がぎっしりとあるだけで、
未来の私を想像して已まないその癖は、
何に対しても意識が存在するといふ自然崇拝に対する
余りに楽観的な在り方といふよりも、
その目玉模様がぎろりと此方を睨む
その視線に怯える私の侏儒ぶりに苦笑しながら、
あれやこれやと肝を冷やしてゐるのだ。


だが、もう立たう。
手相に暗い未来が暗示されてゐたところで、
所詮一人の人間の生死に帰することでしかなく、
高高そんなことである以上、
どう逆立ちしても取るに足らぬ下らぬことでしかない。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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