瞼裡に再現前した表象に喰はれる

破戒でもしたのだらうか。
おれの意識は、
気を抜くと瞼裡に再現前した表象に追い抜かれて、
挙げ句の果ては喰はれる懸崖に追ひ込まれた。
その懸崖といふのがまた曲者で、
その懸崖の底にはこれまで瞼裡に再現前した表象の死骸が死屍累累と堆く積まれ、
このおれをその仲間にしようと手ぐすね引いて待ってゐるのだ。
つまり、おれは追ひ込まれちまった。
直ぐにでも瞼裡に再現前した表象に喰はれる恥辱を味はひ、
おれは意識を失って卒倒する馬鹿を見るのか、
それとも、おれはほんのちょっぴり残された
おれがおれであることの先の恥辱とはまた違ふ恥辱を堪へつつ、
ちぇっ、つまり、どの道恥辱しか残されてゐないのだ。


ならば、おれはおれの意識が生き残る夢を見ながら
瞼裡に再現前した表象に潔く喰はれちまった方がちっとはましで
懸崖の底の表象の骸の山に喰はれちまったおれの抜け殻をぺっと吐き出す
瞼裡に再現前した表象を我が物顔でのさばらせつつも
そいつに残るかも知れぬおれの夢を真珠の種の如くに植ゑ付けることに
辛うじて成功したならば、
おれは寄生虫の如くその瞼裡に再現前した表象に取り憑いて
闇の中に闇の花を絢爛豪華に咲かせるが如くに
おれの夢の花を瞼裡の再現前した表象を突き破ってでも咲かせる覚悟を決める時が、
この刹那なのかも知れぬ。


さて、どうしたてものだらうか。
尤も、おれは端からおれなんぞにちっとも信を置いてはをらぬが
それでもおれの生を繋ぐ本能は本能としておれにも宿ってゐるやうで
おれも生き物なんだといふその胡散臭い感覚に騙されることを知りつつも、
つまり、時時刻刻と騙されながらおれは生きてゐるといふ幻想と戯れながら
既にあの懸崖の骸の死屍累累と堆く積み上がった表象の山で、
断末魔の雄叫びを上げながら、
しかし、おれの闇の頭蓋内を吹き荒ぶ暴風にそれはかき消され、
最早その断末魔を誰も耳にすることはないのだ。


ざまあないな。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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