ぼんやりとしてゐると
何ものかが


――ふぁっ。


と欠伸をしてゐるのにも気付かずに、
微風が頬を掠める仄かな感触にはっとする。
その感触は、といふと、実に気色が悪いもので
闇の中でそれとは知らずに頬に蒟蒻が触れる気味悪さにも似て
絶えずおれの触覚を刺激しては、
ぶるっと覚醒させるのだ。


気味が悪いといふことが生のダイナモとして機能してゐる健全さを
一時も忘れてはならぬのだ。


――そもそも吾と言ふ存在が気味の悪い存在ではないのかね。


さう問ふ欠伸をせしものは、
おれの存在をぞんざいに扱ひながら、
また、厄介者が来たとでも思ってゐるに違ひないが、
そのおれはといふと、ぶよぶよとした世界の触感が
堪へられぬのだ。
こんな気色が悪い世界の感触に堪へられる存在が果たしてあるのであらうか。
世界は鋭角で魂へ切り込むぴりぴりとしたものでなくてどうする。


ぶよぶよとした世界の感触に悩まされながら、
おれは其の絶えず揺れてゐるぶよぶよの世界の中で、
独り確実な存在としてあり得るのか。


何か、世界の胃袋の中にゐるやうなこの気色悪い感触は、
おれが世界の中で存在する限り、
遁れられぬものなのか。


いつかは世界に消化され、
世界の血肉へと変化するおれと言ふ存在は、
正直なところ、このぷよぷよしたものが本当の世界の感触なのかどうか解らぬのだ。
積 緋露雪

物書き。

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