アイロニーな存在でありたい

誤謬であることを承知しながらも
それを呑み込みながら、
おれの存在を存続させるアイロニーに自嘲しつつ、
それでいい、と自分に言い聞かせながら
おれは心底アイロニーな存在でありたい。


しかし、アイロニーは苦悶することを齎すが、
捻ぢ切れる己の有り様に嗤ひながら、
おれは此の世に屹立するのだ。


何を嗤ってゐられるのか。
それはおれが全身誤謬で成り立ってゐるアイロニーに
納得してゐるからに違ひない。


それでは何故納得できるのかと自問すれば、
此の自問する吾と言ふ存在が既にアイロニーな存在としか言ひ様がないのだ。


しかし、アイロニーと一口に言っても、
その苦悶の程は計り知れず、
おれは絶望の底に落とされても
おれが誤謬で出来てゐることは換へやうもなく、
もう居直るしかないのだ。


多分、誤謬に真理は隠されてゐるかもしれぬのであるが、
真理を求める虚しさにおれは既に疲れてゐる。
それは、真理が青い鳥のやうに思へ、
真理は何気ない日常に両手から零れ落ちる程に転がってゐて、
それに気付かぬのは馬鹿であるのであるが、
正しく俺はその馬鹿の一人で、
日常に苦悶しか見えぬおれは、
盲人にも劣る存在でしかないのだ。


ならば、と開き直るおれは、
アイロニーなることをそれでも辛うじて肯定してゐて、
其の捻ぢ切れる思ひはどうしようもなく、
唇を噛んで堪へ忍ぶ外ない。


アイロニーは誤謬ではなく、
存在が存在するための必要最低条件の天賦のもので、
それは先験的なものに違ひなく、
おれがアイロニーから抜け出せることは先づない。
しかし、それでいいのだ。
積 緋露雪

物書き。

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