潰滅するものたち
己にのめり込むやうにして自らが自らの内部へと向ひ、
さうして最期は、無限小の中へと潰滅するのか。
潰滅するものたちは、
多分、外部と言ふ概念を知らぬままに、
内部へと進軍するのであるが、
それはまた、内部と言ふ概念も持たぬに違ひない。
ただ、闇雲に突き進んで、
ドストエフスキイが『悪霊』のモチーフとした豚が悪霊に取り憑かれて湖へと突き進み飛び込む聖書の一節ではないけれど、
何かに魂を捕まれたかの如くに内部へと突き進むことに取り憑かれて、
己をマトリョーシカの人形のやうに、
内部へと内部へと小さくなりながら推し進める推進力のみを授けられ、
それが赴くままに、内部へと掘り進めて行くに違ひないのだ。
さうして、内部が腐った古木のやうにして、
ある時それはポキリと折れて斃れるのだ。
それと言ふのも、内部に滞留するばかりの潰滅するものたちは
やがて腐敗を始めてもそれに気付かずに
唯、取り憑かれたかの如くに内部へと押し合ひ圧(へ)し合ひしながら、
仕舞ひには蒸発するやうに此の世から消えてなくなるのを常としてゐる。
さうして始めて潰滅するものたちは吾を探し求め始めるのだ。
その様が膣と男根とのピストン運動で放精され子宮にある一つの卵子目掛けて吾先にと争ふ精虫どもにそっくりなのさ。
吾、此の世にありて、さうして見出せしものなのか。
さうして、たった一つの精虫が受精に成功するやうに、
潰滅するものたちの死屍累累とした死体の山は、堆く積まれ、
その中の一つの潰滅するもののみ、外部へと生み出される筈なのだ。
さうして、潰滅したものは甦り、形相を授けられるのだ。
――ならば、質料も勿論ひっ付いてゐるのだな。
――勿論。だが、質料は最低10年と言ふ歳月がかかるやうに出来てゐる。
――何故に?
――世界認識をするためさ。
――世界認識?
――さう、世界認識するために世界を味はふには時間が必要なのさ。
――それで、世界は解った奴がゐるのかい?
――いいや。
――飛んだお笑ひ種だな。
――だが、世界が終焉する時を何ものかが凝視する筈だ。それに期待をかけてものは子を産み、世代を繋げて行くのさ。