光の国への誘惑は
死を意味するのか。
地平線からの曙光は
冷たい輝きをしてゐた。


年が明けるといふことに対して反射的に
一休宗純が正月に
――ご用心、ご用心。
といって街を練り歩いた髑髏を思ひ浮かべるおれは
死への直行がめでたきこととして刷り込まれてゐるのだ。
さうでないと平衡がとれない思考の持ち主として
既に偏執した存在様態をしたおれは、
それだけで危ふい。


曙光に死の匂ひしか嗅ぎ取れぬおれは、
やはり、間違ってゐるに違ひない。
が、しかし、それでいいとも思ってゐるのだ。
きらりと眩い曙光を浴びながら、
死を思ふおれは、
その寒寒とした曙光に憧(あくが)れる。


ざくりと霜柱を踏みしめながら、
それを次第に溶かして行く筈の曙光は、
しかし、おれの心は凍てつかせるのだ。


この寒寒とした光の中で、
おれは死へと止まらない歩を進めるのみ。


美しい女性の顔が去来しては
ひっひっひっ、とおれを嘲笑ふ。


ならばとおれはその美しい女性と熱い口吻をする。


そこにはさて、愛は転がってゐただらうか。
積 緋露雪

物書き。

Share
Published by
積 緋露雪
Tags: 曙光

Recent Posts

死引力

不思議なことに自転車に乗ってゐ…

2日 ago

まるで水の中を潜行してゐるやう

地上を歩いてゐても 吾の周りの…

3週間 ago

ぽっかりと

苦悶の時間が始まりつ。 ぽっか…

4週間 ago

狂瀾怒濤

吾が心はいつも狂瀾怒濤と言って…

1か月 ago

目覚め行く秋と共に

夏の衰退の間隙を縫ふやうに 目…

2か月 ago

どんなに疲弊してゐても

どんなに疲弊してゐようが、 歩…

2か月 ago