生きることで精一杯な日常においても
それはおれの空虚ながらんどうの胸奥に棲み着き、
海胆(うに)の如くに棘だらけのそれは
いっつもおれの胸奥を突っついてはおれを鼓舞するのだ。
おれの胸奥ががらんどうなためにそれは何時もカランコロンと転がってゐて、
おれの胸を締め付ける。
さうしておれは己を奮ひ立たせてはチクチクとする胸奥のざわつきに舌打ちしながら、
「へっへっへっ」と嗤ってそのざわつきを遣り過ごすのだ。
その時の後ろめたさと言ったなら、
噴飯物で、おれは瞋恚で顔を真っ赤にするしかないのだ。


さうする内にがらんどうの胸奥はがらんどうの頭蓋内といふ表象、
つまり、晒し首の頭蓋内の表象と結びつき、
何となく中有を思っては、
成仏出来ずにこの地上を彷徨ってゐる亡霊共に呼応するやうに
己に対する呪怨に対して目が眩むおれは
己をぶん殴る勢ひで胸奥に棲み着いてゐるそれに対して
――もっとおれを突っつけ。
と、嘯くのだ。


それがおれの胸奥に棲み着いた海胆の如き棘だらけのそれに対する
唯一の抵抗の姿勢なのだ。
積 緋露雪

物書き。

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