操り人形の糸が切れたやうに
ぶら~んと四肢が揺れるのみのその醜態にすら最早何ら反応する気力もなく、
只管に自己に潜り込むのみの脱力感は、
自己を叱咤する気力もなく、
唯、ぼんやりと虚空を眺め、
ずきずきと痛む頭痛に集中力を奪はれては、
唯、哀しさのみが湧いてくるものだ。


率直に言はう。
おれは敗北したのです。
それは世界でもあり、己でもあり、他者でもあり、神でもあり、
唯、おれは敗北し、哀しいのです。
この部屋は只管に寒く、
暖房器具はなく、その代はり厚着をし、手袋をしても手は悴(かじか)んで
げんなりするばかりなのですが、
元気づけにもう三十年前にもなる小林麻美のCDよりも断然音が良いLP盤のアルバム「grey」をかけては
その中で歌われている女の遊び心にくすりとするのかと思いきや
振られた女の顔が次次と浮かび、
また、当時のおれの思ひ出に耽り、
更にげんなりするのです。


憂鬱はおれの宿痾の一つなのであったが、
このときばかりはその宿痾に囚はれて身動きがとれなくなってしまってゐたのであった。
脱力感に囚はれたならば、
只管にそれが去るのを待つしか最早手立てがないことは嫌と言ふほどに知ってゐるのであたが、
何時も抵抗を試みては玉砕するのを繰り返してゐたのである。
さうして、おれは更に脱力感に苛まれ、
頭痛は更に激しさを増し、
ぼんやり見上げる虚空には過去の思ひ出が走馬燈の如く駆け巡り、
部屋の中では小林麻美の結婚直前の艶やかなる歌声が響き、
そして、独り自己に沈潜しちまった哀しいおれがゐるのであった。


ほろほろと頬を流れ落つる涙に私は尚更に哀しくなり、
寒寒とした部屋の中でおろおろと泣くばかりなのでありました。
積 緋露雪

物書き。

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