無線のAntenna(アンテナ)が強烈な空っ風でくう~んと撓み、
その撓みにおれは凭れる資格はあるのかと問ふてみるが、
冬の羸弱な陽射しに欠伸する影法師は、
陽だまりでうつらうつらとうたた寝したくてしやうがなく、
Antennaの撓みの影に凭れたくて仕方がないのだ。


Antenna上空の垂直に視点を移すと冬の澄明な蒼穹は柔らかに撓み、
強烈な空っ風をまともに受け止め、
上空ではとぐろを巻いてゐるであらう疾風の悶絶の様子が
幽かな天籟によって聞こえてくる。


そんな緊迫など知ってか知らずか、
相変はらず影法師は大きな欠伸をして
心地よい微睡みの中へと埋没したく、
Antennaの揺れる影にも眠気を覚えるのか、
影法師は今にも崩れ落ちさう。


やはり、疾風怒濤の天空のことなど眼中にないのか、
余りに気が弛緩した影法師は、
然し乍ら、おれの現し身なのかと問ふてはみるが
羸弱な冬の陽射しは柔らかく皮膚に当たり、
仄かに上気したおれもまた、然し乍ら、眠くてしやうがないのか
寒風が頬を切り裂く如くに吹き荒ぶ中、
陽だまりに蹲り、大欠伸する影法師に嗤はれるのであった。


嘗てAtlas(アトラス)の如くに蒼穹を肩で背負ふ覚悟があったおれではあるが、
こんなにも柔らかな陽射しの下ではそれもなし崩しに砕け散り、
柔和な陽射しに感化されてぼんやりと影法師とにらめっこをする。
さうして何時も嗤ひ出すのはおれの方で、
それにも飽きた影法師はうとうととし始めて、
何時の間にやら午睡の中へとのめり込む。


こののっぺりとした感触は、真っ青な蒼穹の感触にも似て、
その間職を振り払ふやうにおれは不意に立ち上がる。


ところが、影法師は相変はらず午睡の中で、
夢の世界で影と戯れてゐるのか、
にたりと時折嗤ふのだ。


そのままおれは蒼穹を見上げて
幽かな天籟に耳を欹てては、
天空から堕天したものの眷属といふことに思ひ致しては、
最早揚力を失ったおれに対してぺっと唾を吐くのだ。


影法師は、その時無限の闇の夢に埋没してゐたに違ひない。
積 緋露雪

物書き。

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