そいつは異物を吐き出すかのやうに
おれをあしらった。
その手捌きは慣れたもので、
おれは路傍の石と同等に
恰もなき如くに、
否、あるにもかかはらず見出さうとしなければ、
決して見出されることがない運命の存在として
見事におれを扱ったのだ。
それは普遍的なる平等をしたまでに過ぎぬのであるが、
その扱ひに対して癪に障ったおれは、
平等主義者に成り得ぬおれの心の狭隘さに嘲弄の目を内部に向けつつも、
恰も異物としておれを扱ったそいつの遣り口の平等に纏ひ付く欺瞞に対して
憤懣やるかたなしといった思ひのままに、
「ぺっ」と唾棄してそいつと袂を分かったのだ。
それがお互ひの為であり、
不快な干渉を起こすことなく、
お互ひがこの世知辛い世の中を生き延びるには必須のことであり、
もうお互ひが葛藤する事なく存在するにはそれ相当の事なのであったのだ。
これからは、おれはそいつに邪魔されることなく存在出来る歓びにしみじみと耽りながら、
冷たい雨が降る中を傘も差さずにびしょ濡れになりながら、
とぼとぼと歩くことの楽しさの中に夢中なのであった。