さうまでしておれ自身を追ひ詰めるのは誰の為にぞ、と問ふたところで、
その愚問に答へる馬鹿らしさに苦笑ひするおれは、
所詮立つ瀬がないのだ。
恥辱に塗れてやうやっと息が継げるおれは
何ものか解らぬ幻影をぶん殴ることで、
おれといふ馬鹿げた存在にさっさと見切りをつけて
逃げ出したいだけに過ぎぬのだ。
しかし、そもそも逃げて何になるのか。
かう問ふおれがゐて
おれは辛うじておれとして踏ん張る。
おれがおれとしてあるといふことが、
これ程苦悶に満ちてゐることであることは、
多分、それは《他》においても同じことで、
存在に苦悶が付随するのは
それではそれは普遍のことと言へるのか。
おれがおれといふ存在に我慢がならぬのは、
唯、おれがおれ以外の何かに変容するべく
その自由を欣求して、
のたうち回ってゐるに過ぎぬのであるが、
それは誰の為にぞ、といふ愚問をおれに突き付ければ、
その問ひによって自刃したいおれがゐて、
そんなおれと刺し違ひたいおれは、
さうすることでしか自由が獲得できぬとふことを
多分、本能的に、つまり、ア・プリオリに認識してゐるのだ。
これはおれが成長するといふこととは全く種類の違ふことで、
唯唯、おれが此の世に存在することに我慢がならぬのだ。
さうしておれは何度もおれを抹殺しては、
おれは薄氷の自由を獲得する。
自由を獲得するにはどうあってもおれを抹殺せずば、
雁字搦めのおれに囚われたおれは、
窒息して死を待つのみのおれは受け容れ難く、
坐して死を待つのではなく、
おれの闇の中で抹殺されるおれは、
蜂の一刺しとして
おれに対しておれが嘗て存在してゐたといふ痕跡を残すべく、
おれはおれと刺し違ひ、
――へっへっ。
と嗤って闇に葬られたいのだ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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