野分けが直撃してゐたその時に

暴風雨が吹き荒れ、家が大揺れする中、
野分けとは斯様に私の心を躍らすのだ。
それは気圧が下がる事でさうなるのか
それとも”恐怖”が襲来するからさうなるのか
その因は様様あるだらうが、
主に生命の危険を感じる事で神経は興奮状態となり、
例へば映画を観てゐる時とは全く違ひ
当事者は私自身である事が逃げ場のない恐怖の事実を私に突きつけ、
そこから生じるやけくそがをかしくてしやうがないのだ。
かうも恐怖でわなわなと震へながらも
それでゐて何が起きるか解らないわくわく感、
それは私自身が此の世とおさらばするかもしれぬと言ふ事も含めて
未来がかうも解らぬといふことの清清しさに得も言へぬ愉悦を感じる。
仮に一命を取り留めて此の世を眺むれば
野分けが過ぎれば地上の惨状は悲惨極まりなく、
その猛威に茫然自失となるに違ひないが、
その未だ見ぬ未来も含めて、
私は野分けによって此の世が一変する事の
その瓦解に希望を見てゐるのかもしれぬ。
何とも浅ましい心持ちではあるが、
野分けの破壊力によって現状が打破される凄まじさに
心躍らずして何に心躍らうか。
解らぬ未来であるが待ってゐる未来は悲惨である。
だから、私は奮ひ立ち武者震ひするのだ。
このやけくそこそは野分けが齎す巨大な力のお陰で、
命あれば、何糞、と破壊された大地に私は顔を上げ、屹立する。
さうして、上空の野分けが過ぎ去って現はれた碧い空を見上げながら、
苦境に立ち向かふ力を得るのだ。
瓦解した街の中で、
遮二無二立ち直らうとする力に吾ながら驚き、
沸沸と湧き上がる高揚感に私の心持ちも一変し、
覚醒する。
現実に翻弄される吾に私は世界に触れた感触を覚えながら、
その感触ににんまりとしつつ
私は確かに私が此の世に存在してゐる歓びを噛み締める。
驚異の恐怖を前にしてやうやっと吾の存在を感じられる幸運に
今私は遭遇してゐるのだ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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