確かに私は存在するのですが、
その核となる吾は蛻の空で、
何処にも見当たらないのです。
何処に行ってしまったのでせう。
私は私を腑分けするやうに
内部を俯瞰してみたのですが、
吾らしきものは何処にも見当たらないのです。
そんな筈はないと
更に目を凝らして私の内部を覗き込んだのですが、
やはり吾は消えてしまったのです。
それでは私の意識はどうかといふと、
確かに意識はありましたが、
何処と無くそれはよそよそしく
その意識が私の意識とは判然としないのでした。
そんな事があるとは思へぬでせうが、
私の意識が私の意識と言ひ切るほどに
はっきりと私の意識である証左が私にはないのです。
それでは私が私と名指してゐるその根拠は何なのかといひますと、
正直申してそれは悪しき習慣に過ぎぬのです。
かうなると私は私である事の自信が何処かへ吹き飛んでしまって、
わなわなと震へ出したのです。
私が私の存在に対してかうも疑心暗鬼に陥ると
後は野となれ山となれではないのですが、
自棄っぱちの私がこの大地に呆然と佇立してゐるのです。
さらさらと頬を撫でながら風が吹き抜ける中、
私は落涙し、
吾のゐないがらんどうの私の内部を
後生大事に抱へ込み
吾の還りを待つのみなのであります。
果たして吾は還ってくるのかと不安いっぱいでありますが、
哀しい哉、吾なしの私はそれでも此の世界で生きて行くのでありました。
それは困難を極めるでせうが、
それでも私を捨て去る事は吾の還るところがなくなってしまふので、
私は自死する事なく艱難辛苦の中、
歯を食ひ縛り生きて行くのでありました。
今日も夕焼けはとても美しく、どろーんと夕日は沈んで行きました。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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