夢を見てゐるとは薄薄感づいてゐたが、
しかし、それは確信には至らぬ私は、
悪夢の土壺に嵌まってゆくのであった。
それが夢魔がなすがままであったとは気付かずに
然し乍ら、夢魔の傍若無人な振る舞ひが目に余る
酷い有様の”此の世界”から
一歩たりとも抜け出せぬ吾が無力を嘆きつつ
ところが、世界から抜け出せると思ってゐる私は、
世界の本質を知らぬ馬鹿者でしかなかった。
夢でしかない此の世界が”現実”である気がしてならぬ私は
やはり、此の世界で今起きてゐる出来事が
悪夢であってほしいとの願望が先立ち
しかし、それが夢とは半信半疑の私は、
一方で、魘されてゐる我が身を俯瞰してゐる私がゐて、
世界に振り回されてゐる私を哄笑しながら
悪夢のやうな世界の有様が妙に現実感に富んでゐので
時に現実は夢を超える事象を引き起こすやうに
修羅場から遁れたくも遁れられぬ私を
――もっといたぶれ!
と、夢魔に翻弄される私を私は面白がりながら
私を俯瞰してゐる私はその残虐性を満足させてゐたのである。
世界に追はれ、最早逃げ場のない私は
今起きてゐる事が夢である事に賭けて
清水寺から飛び降りるやうに
夢から飛び降り、
目覚めたのであるが、
何に対して私は夢で藻掻いてゐたのかと
未だに寝惚けた頭を弄まさぐると
世界に翻弄される私を恥辱と感じて
私はそんな私を嫌悪し足掻いて見せたが、
それが夢であらうと
世界に対して独り抗ふ私は
その根本に世界を嫌ってゐる私がゐて
世界の顚覆を密かに願ってゐた私は、
何よりも世界に翻弄されるのを嫌ってゐたが、
しかし、絶対的非対称性の中で
私が世界に翻弄されるのは極極自然な事で、
それを受け容れられぬ私の狭量さは
目を蔽ふばかりで、
それは傲慢といふべきものである。
悪夢は醒めるが世界からはどう足掻いても遁れられぬ。
――ふっふっ。それでも不満だらう?
目覚めてからの私には
薄ぼんやりとした不安ばかりが
渺茫と心に拡がるばかりなのであった。