深夜、独り雨音だけが聞こえる中、
沈思黙考してゐると
思考は先走り、
その無軌道ぶりに吾ながら感心一入ひとしほなのであるが、
無軌道とはいっても暫くそれを観察してゐると、
何かを中心に渦動してゐることが闡明する。
さて、ではその中心は何かと更に観察してゐると
それは「死」である事が朧に見え出す。
別段、私は死す事に何ら恐れを抱いてゐないが、
唯、私の発想の根源に死がどんと居座ってゐるのは間違ひなかった。
然し乍ら、何ら恐れを抱いてゐないといひ条、
発想の根源に死があるといふ事に対して
私はそれとは気付かず死に或ひは私の深層ではびくつきながら
まるで腫れ物に触るが如く接してゐるのかも知れぬ。
でも、それで構はぬではないか、と私は開き直り、
尚も渦動する思考を愉しんでゐる。
しかし、それも長続きはせず、
必ずといっていひほどに
異形の吾どもが半畳を入れたくてむずむずしてゐたのだらう、
私の頭蓋内を撹乱し、


――ふっ、何を静観してゐられるのか。お前の存在に対してお前は何と申し開きするつもりか。恥辱に満ちたお前の存在をお前はちっとも恥ずかしがらぬが、存在そのものが恥辱である事にお前こそ最も恥じ入らねばならぬ道理ではないのかね。


尤も、私は己の存在が恥辱に満ち満ちたものである事に
苦虫を噛み潰したやうにして己の存在を堪へ忍び、我慢し、
しかも、己が何か一角の者になる事を断念もしてゐるが、
それでも私にも「欲」があり、
人間である矜恃だけは失はずに、
自然に翻弄され異形の吾どもに食はれながらも
死を受容してゐるのである。


――何を落ち着き払って死を受容してゐるだ。ほら、藻掻き苦しめ。それが唯一お前に残された死に対する礼儀といふものだぜ。


雨音は何時しか已んでゐて、しじまの中に吾独り残されてゐたのであった。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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