蹲る吾
頭蓋内の闇の脳といふ構造をした五蘊場に蹲る。
確かに、そいつが存在してゐる事はその気配で解るのであるが、
そいつの気配はそれでゐてとても異様で、
其処だけ事象の地平線が存在するかのやうに闇の中でもさらに濃い闇を形成してゐて
恰もBlack holeのやうなのだ。
つまり、五蘊場で蹲る吾は私には全く見る事は出来ず、
唯、異様な気配を発するのみ。
それでもそいつの動きは逐一手に取るやうに解るから不思議なのである。
そいつの棲み処が吾が五蘊場である事がさうしてゐるのであらうが、
時折、重力波の如き脈動を発して私は酷い頭痛に悩まされる。
蹲る吾は五蘊場にBlack holeの如くに棲んでゐる事から、
五蘊場に生滅する表象を残らず喰らひ、
何やら不気味な薄笑ひを発しては、
私を隙あらば丸呑みする殺気をも放ってゐる。
それは蹲る吾が絶えず放つ波動が私の感性と共鳴を起こし、
蹲る吾の様子が私には認識出来るのだ。
不思議なものである。
やはり、蹲る吾も吾が五蘊場の住人であり、
私の認識下にあるのかもしれぬ。
然し乍ら、それは単なる私の誤謬の認識かもしれず、
蹲る吾は、全く異なる事を私に発してゐて、
私はそれを知りたくなくて、
わざと誤謬してゐるのかもしれぬ。
――蹲る吾よ、お前は聞いてはをらぬ筈だが、お前の一挙手一投足が私は気になって仕方がない。何も言はぬ吾が蹲る吾よ、何故に黙して唯、吾の表象を片っ端から喰らひ、そのお前は事象の地平線に身を隠すのか。ああ、さうか、お前は確かに吾が五蘊場に存在するBlack holeに違ひなく、何時しか新たな吾を生成するべく今は只管蹲ってゐるに過ぎぬのか。やがて、吾が五蘊場には新たな銀河が生まれ、私は新たな境地へと踏み出す事になるのかもしれぬな。蹲る吾よ、私はそれまで、絶えざる苦悶の中で吾を何度も剔抉しては吾の死屍累累の山を堆く積み上げて、まだ知らぬ吾を追ひ求める事だらう。それをもお前は丸呑みしては、不気味に薄笑ひを浮かべ、私を侮蔑するのか。それはそれでよい。何時しか新たな吾を生むまでの辛抱なのだから。産みの苦しみだな。一際吾が五蘊場で暗い闇の蹲る吾よ、皮肉なことに私には闇が希望の星なのだ。ふっ。