撤退に撤退を重ね
宿借りの如く身の丈にぴったりの隠れ家にやうやっと体軀を隠したが、
蝸牛の如く目玉だけ恐る恐る外界へと投じて、
辺りの様子を窺ふのだが、
情報が完全に遮断された中では、
何も解らず仕舞ひ。
この緊急事態の中で、
己の命惜しさに身を隠したおれはおれを嘲笑ひながらも
やはり、命は惜しいと見えて
身震ひしながら隠れ家に身を潜める。
それしか己の身を守る手段がない現状、
おれに出来る事と言へば
ぶるぶる震へる手を合はせて祈る事のみ。
瘴気に蔽はれたこの大地は
既に風任せの状態で、
原発から放射能物質が漏れたときのやうに
風下にゐた場合、
被害は甚大で、
瘴気に汚染された大地をして
おれは命を削りながら汚染された大地で生きてゆかねばならぬ。
だから、祈るのだ。
最早、祈る事くらゐしか出来ぬおれの非力さに
吾ながら自嘲するのであるが、
だからといって瘴気が退散してくれる筈もなく、
この運を天に任せた格好の居心地の悪さは、
しかし、どうしやうもない。
――いくら不満を捲し立てたところで、状況が変はる筈はなく、お前の命も風前の灯火だぜ。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。桑原桑原。ご愁傷様。次々と斃れ行く命に幸あれ。とはいへ、お前は地獄行きが決まってゐるからな。随分と気が楽だらう。精精、命乞ひをするがいい。その拗ねぢくれた魂で己を自嘲しながらも、結局の所、己の命惜しさに祈る他力本願に身を任せるといふ事の意味を魂の底から思ひ知るといいんだ。所詮、お前は生きてゐるのではなく、生かされてゐる事をとことん思い知るがいい。さうすれば、大地も少しは慈悲を注いでくれる筈さ。自力ではなく他力が此の世の本質なのさ。それが今ほど解る状況はないだらう。親鸞の言ふ他力本願の言はんとする事がやうやっとお前にも解るときが来たか。さすれば、自我に囚はれる事のなんとちっぽけな事か身を以て解る筈さ。精精生き延びるんだな。この地獄絵図の世界の中で。ふっ。