量子もつれと同様、念速も光速を超えたか。
念じれば瞬時に脳裡に浮かぶ心像が
光速を超える筈もないが、
然し乍ら、例へば死者の念が念ずれば、
それは軽軽と光速を超えて
宇宙の涯までたまゆらに行き着くだらう。
それは、生者である吾が
宇宙の涯を念ずることが可能であるからであり、
唯、生者は哀しい哉、
肉体といふ質量があるものに束縛されてゐるために、
決して光速を超えることは出来ぬ。
それでも念ずれば、生者も仮想乍らも
何処へと行くことは可能で、
それは想像の世界にすら飛び込めてしまふ。
それもまた、たまゆらの出来事で
念速の一端が知れるといふものよ。
生と死が分断してしまってゐる現代において、
おれは狂者の如く独り生と死は渾然一体のものであると叫ぶ。
さうせねば、死者の念に誰も気付かず、
その偉大さに傅かしづくこともなく、
生は生で自己完結するといふ余りにもさもしい死生観から
脱することはなく、
死を忌避するといふ生と死が分断したまま、
死後、彷徨へる念として此の世に縛り付けられるのだ。
死といふものはある日突然とやってくる。
それを見ない振りをしてゐるから
例へば、悪疫が流行る中、
右往左往し、
死の恐怖に戦くのである。
これまで生者はどれ程死者を冒瀆してきたことか。
その報ひを生者は死の恐怖を味はふことで
償ふ外ないが、
それでは足りず、死後も此の世に縛り付けられる。
彼の世に往けるものなど高が知れてゐて
それを知らぬへんてこりんな死生観に毒された現代人の殆どは、
生と死の分断といふ死を冒瀆したまま、
死者の念速の凄みすらも知らずに
恐怖に戦きながら死んで行くのだ。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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