何度となく病を患ひつつも
のらりくらりと今まで生を繋いできた愛らしい老犬は、
目と耳が大分衰へたが、
鼻だけはまだ、十分に利くやうで、
それをして安らかに暮らしてゐる。
相棒を亡くしたときは
死を理解してゐたのか、
何とも哀しげに泣き暮らしてゐて、
それ以来、余計に甘えん坊になってしまった。
老犬は、足が弱ってゐて踏ん張らないと
立ってゐられぬが、
それでも、起きてゐるときは、
東を向いて何かを思案してゐるやうに
凜凜しく立ったゐる。
よぼよぼの見てくれながら、
その立ち姿は神神しくあり、
年取ることは
老犬を見てゐると
神聖なことにしか思へぬのだ。


存在が老ひることは、
嘆くことではなく、
誇れることなのだ。
死が近しいとはいへ、
否、死が近しい故に
その存在自体が荘厳なのだ。
神聖なその老犬の頭を撫でながら、
「くううん」
と鳴く老犬を抱き締め、
大切な一日を今日も生きる。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪
Tags: 老犬

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