沈降する意識は何を夢見る

呼吸が次第にゆっくりとなり、
意識が私であることを意識出来ぬまでに
眠気に襲はれてくると、
意識は海水に浮くやうにぷかぷかと浮遊し始め、
いざ、夢の世界へと出発する。


夢の世界への出立は、
呼吸は息を吐き出すときに決まってゐる。


私は最早私であることを保てぬ中でも
辛うじて私が私であることを保持しつつ。


そんな意識が混濁した中、
息を吐いたとき、
私といふ意識は融解して
と同時に私は夢の世界へと沈降する。
その夢の世界は《全=私》といふ不可思議な世界で、
全能なる神にでもなったかのやうに
私は夢を見てゐるのかもしれぬが、
神が世界を制御出来ぬやうに、
私も夢の世界で起きることを制御出来ずに
然し乍ら、その摩訶不思議な状態を全的に肯定するのだ。


仮令、夢見る世界が私を襲ってきても
私は不安にぶるぶると震へる仔犬の如く
その世界を全肯定する外、取るべき道は残されてゐない。
それは巨大な恐怖に違ひないのだが、
何故か私は夢の中では夢魔の為されるがままに
翻弄されることに快楽すら感じてはゐないか。


それは何故なのか。


私は《全=私》であった筈が、
すぐに世界に呑み込まれ、
吾が頭蓋内で表象される物事と
同じ位相に立てゐるからなのだ。


ロシア人形のマトリョーシカのやうに
私といふ存在は様様な大きさで入れ子状になってゐて、
様様な位相で世界に適応してしまふ。
その変幻自在が私の一つの本質なのだ。
さうして私は、夢の世界の更に奥底へと
時に疾駆しながら、
時にゆっくりと
夢の世界に翻弄されつつも
沈降して行く。
さうして私は吾が快楽を貪り喰らふ。
積 緋露雪

物書き。

Recent Posts

狂瀾怒濤

吾が心はいつも狂瀾怒濤と言って…

1週間 ago

目覚め行く秋と共に

夏の衰退の間隙を縫ふやうに 目…

3週間 ago

どんなに疲弊してゐても

どんなに疲弊してゐようが、 歩…

4週間 ago

別離

哀しみはもう、埋葬したが、 そ…

1か月 ago

終はらない夏

既に九月の初旬も超えると言ふの…

2か月 ago

それさへあれば

最早水底にゆっくりと落ち行くや…

2か月 ago