世界を捉へるのには合理から始めてはならぬ

世界の秘術の如く
数学が、美しい定式として、または定理として、
将又、公式として人類未到のものとして絶えず邁進するが、
この数学が曲者で、
合理の権化の数学に触発されて世界を語るに相応しい言葉を
紡ぎ出すには、世界はあまりに不合理なのである。
不合理なものは不合理なもので対処しなければ、
語るに落ちるといふものだ。
とはいへ、人類の頭脳の粋を結集しての数学には、
なんとも言ひ難い魅力満載なのはいふまでもない。
数学には私よりももっと深くに考へ抜かれた末に
見出された珠玉の数式の数数が目白押しで、
その論理的な考え方には成る程途轍もない説得力があり、
その数学の誘惑に負けずに数学には後ろ髪を引かれる思ひで、
私は何とか数学の跳躍台無しに世界といふ不合理の権化を
語りたいのである。
然し乍ら、奇妙なもので、
いざ、不合理を不合理で以て語るのは
かなり難しく、
私はそもそも何事も合理に帰結したい悪癖があり、
さうして不合理極まりない現実を忘れたいのだ。
想像はつくと思ふが、当然ながら、私はProgrammingプログラミングが大好きで、
Programmerプログラマとして働いていたこともあったが、
もしかすると私は合理的にしか物事を把捉する術を持ってをらず、
あの不合理の権化たる世界に対する言葉を持ってゐないのかも知れぬ。
歯痒い。
不合理なものに対してどうして不合理に語れぬのか。
それは私が多分、合理的に物事を考える思考法に
矯正されてしまったからに外ならぬ。
ならば、今からでも遅くない。
不合理を処せる言葉を一語一語獲得するまでだ。
さうしてたどたどしく、此の不合理な世界を告発するのだ。


――お前を存在の鏖殺おうさつの罪で告発する。
と。
積 緋露雪

物書き。

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