それはシュメール神話における金星を意味し、
愛と美、戦ひ、豊穣の神の名でもあります。
それを具現化したやうに美しい女性がイナンナ、あなたでした。
今も忘れ得ぬあなたの面影に
私は翻弄されてゐます。
黒髪が美しく映えるその長い髪から醸し出される
えならぬ馥郁たる香り、
フランス人特有の蠱惑的な瞳、
其処に東洋的な神秘性を湛へた美麗な顔貌に
私は魅せられたのです。
Proportionも抜群で
非の打ちどころがない女性がイナンナ、あなたでした。
知性にも溢れ、
私の隙あらば、
鋭くフランス語ではなく英語で切り込むそれは、
私を見事に追ひ詰め、
その論理の組み立て方は
幼き頃から哲学を学んできたフランス人特有のもので、
論理好きの私ですら遣り込める怜悧なものでした。


イナンナ、フランスは、欧州は新型コロナウイルスで
惨憺たる状況だけど、
生き延びてゐるのでしょうか。
そのことだけが心配でなりません。


日本をこよなく愛したイナンナは、
コロナ禍で否応なく帰国せねばならなかったのですが、
それが正解だったのかどうかは解りません。
しかし、このやうな状況下、
家族とともにゐたいとあなたはフランスへと旅立ちました。


コロナ禍は一向に収まる気配を見せませんが、
私はあなたの面影を抱き、
あなたの生存を祈りながら、
巣篭もり生活を続けてゐます。


仮象のイナンナと口付けを交はし、
抱き合ひながら、
思ひ出の中に沈降してゐるイナンナの残り香を嗅ぎ、
虚妄の世界で遊行してゐる私は、
それでも心は蕩とろけるやうに発情し、
この抑へられない情動に溺れるやうにして
吾が身を情動のままに任せては、
仮象のイナンナのことを抱き締めてゐるのです。
さうすることが私のあなたへの愛の唯一の発露なのです。


許してくれますよね、イナンナ。
夢想の中での愛撫と抱擁を。
イナンナとまたの再会ができるときを夢見て、
私は今日も仮象のイナンナと独り遊びをしては
仮象のイナンナと戯れてゐるのです。
さうして私は孤独を嘗めるのです。
積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪
Tags: イナンナ

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