何度足を掬はれれば解るのだらう。
狡猾極まりない吾は隙あらば私の足を掬ひ、
私が素っ転ぶのを見ては
ざまあない、と嘲笑を浴びせる。
私が何をするにも吾は私の足を引っ張り
協働するといふ概念は吾にはないやうだ。
この私と吾の完全な乖離は
百害あって一利なしで、
最終的には私が吾をぶち殺すしかないのであるが、
何度吾を殺しても吾は甦り、
逆に私が常に足を掬はれる。


――何を今更戸惑ってゐるのか。吾の悪態は今に始まったことではないではないか。お前が幼き頃より内部に巣くふ吾はお前の足を掬っては高笑ひをしてゐた極悪人ぞよ。ヱヴァンゲリヲンの使徒のやうに「死」することはなく、何度お前がぶち殺したところで、吾は甦り、死すことはない。つまり、お前の肉体が滅んだとしてもお前の内部に巣くふ吾は未来永劫に亙って死ねぬのだ。吾とは此の世で最も哀れな存在ぞよ。足を掬はれることが何ぞよ。足を引っ張られることが何ぞよ。吾の絶望に比べたら塵芥に等しいではないか。
積 緋露雪

物書き。

Recent Posts

狂瀾怒濤

吾が心はいつも狂瀾怒濤と言って…

1週間 ago

目覚め行く秋と共に

夏の衰退の間隙を縫ふやうに 目…

3週間 ago

どんなに疲弊してゐても

どんなに疲弊してゐようが、 歩…

4週間 ago

別離

哀しみはもう、埋葬したが、 そ…

1か月 ago

終はらない夏

既に九月の初旬も超えると言ふの…

2か月 ago

それさへあれば

最早水底にゆっくりと落ち行くや…

2か月 ago