ユリゼン[第一]の書
ヰリアム・ブレイク著
翻訳 積 緋露雪


ユリゼンの[第一]書における序


太古の「聖職者」の掌握せし権力あり
「幾つもの永劫」が彼の権力下の宗教を拒否した時、
一方で、北にある
曖昧模糊として、影のやうな、空虚な、孤独な
或る場所を彼に与へし。


吾が汝の歓喜の呼び声を聞くその「幾つもの永劫」は、
素早く飛び去る言葉を書き留め、そして、畏れず
汝、「幾つもの永劫」の劫罰の暗き幻影を明らかにする事を。


第一章


1.見給へ、恐怖の一つの影が生じる
「永劫」に! 「未知の」、「不毛な」!
自己閉塞せし、全的拒否せし、ところで「悪魔」は何を作りしか?
この忌はしき空虚に
この魂がぞっとする空虚に? ……或る者が言ひし
「其はユリゼン」、しかし、未知が、抽象的で
薄気味悪い秘密が、暗き力が隠れし。


2.倍倍に彼は分裂し、そして彼の九重に折り畳まれし暗黒の中にある空間により空間を測りし、
不可視の、未知の! 変化が現はれ、
彼の荒涼として峨峨たる山脈に憤怒を上げる
顫動せし黒き風により


3.彼は悲惨な戦ひの中で奮闘せし
様様な姿形をして不可視の鬩ぎ合ひにおいて
そして見限られたる野生性から生じし
野獣の、鳥の、魚の、大蛇の、そして四元の
動揺の、爆発の、蒸気の、そして雲の


4.しじまなる活動において転回する暗黒、
劫罰の苦悶の中で見えず、
一つの活動は未知でそして恐ろしき、
一つの自己凝視する影、
途轍もなき徒労に占められし中で


5.しかし、「幾つもの永劫」は彼の巨大な森を見し
幾時代に渡りて彼は横たわり、閉ぢ込めし、未知の
薄気味悪きものは深淵に閉ぢ込め、全ての空虚
ぞっと身震ひする忌まはしき渾沌


6.彼の薄ら寒き恐ろしき沈黙にある、暗黒のユリゼンは
準備せし、彼の一万もの稲妻は
陰鬱な厖大なるところに及び、彼は横たはる
恐ろしい世界を横切るやうに、そして、車輪群が回りながら
膨脹する海海の如く、彼の雲の中で轟く
雪を湛えた彼の丘丘に、彼の山山に
霰と氷を湛えた、恐怖の声声が、
聞こえし、秋の稲妻群のやうに、
雲が実りの畑を炎で燃え上がらせる時
(続く)
積 緋露雪

物書き。

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