前歴史における世界開闢物語 三

第三の時代


永劫界に現れせし一つ目の巨人は
腕力こそ破壊的なまでに強力の持ち主でありしが
智は生まれたての赤子のそれで、
轟轟と泣くばかりでありし
巨人が泣けば、
永劫界の底が抜けし深淵は蠢き逆巻くのでありける
ところが、永劫界のものたちは宙を浮くのもお茶の子さいさいで
仮令、永劫界の底が抜け大地を失はうが
永劫界のものたちにとりて
それが直接間接に永劫界のものたちの生存を脅かすものではなし
唯、永劫界のものたちにとりて
驚天動地のことは
何をおいても一つ目の巨人が
何のために永劫界に現れしか、といふことと
何故地は底が抜け深淵が
一つ目の巨人の泣き声に呼応するやうに逆巻くのか、といふことの
いづれもがこれまでの日常と何の脈絡もなく
出現したのかといふ二点に尽きし
しかし、それもすぐに明らかになりし
一つ目の巨人は永劫界の破壊者で、
自らの存在と引き換へに
永劫界諸共消滅させるべく
蝉の幼生の如く長くに亙て
永劫界の地深くに搏動せしが
地を破り、その拍子に永劫界の底が抜けしは
深淵が永劫界を丸ごと呑み込むその予兆なりし
永劫界が滅びるとは矛盾してゐるが
永劫界に時は既に始まりけり
一つ目の巨人の出現と地の底が抜けしは永劫界にも時が流れし証拠なり
やがて永劫界のものたちはみるみる老け始めるなり
かうして第三の時代が終はりぬ
而して未だに暗鬱な状態。
(続く)
積 緋露雪

物書き。

Recent Posts

死引力

不思議なことに自転車に乗ってゐ…

2日 ago

まるで水の中を潜行してゐるやう

地上を歩いてゐても 吾の周りの…

3週間 ago

ぽっかりと

苦悶の時間が始まりつ。 ぽっか…

4週間 ago

狂瀾怒濤

吾が心はいつも狂瀾怒濤と言って…

1か月 ago

目覚め行く秋と共に

夏の衰退の間隙を縫ふやうに 目…

2か月 ago

どんなに疲弊してゐても

どんなに疲弊してゐようが、 歩…

2か月 ago