第五章
1.恐怖でロスは彼の仕事から飛び退きし、
彼の巨大な鎚は彼の手から落ちぬ、
彼の炎が睨み、そして、病気になりぬる、
煙の中に彼の強力な四肢が隠れぬ。
それに対して騒音の潰滅する大音響を伴って、
衝突音、そして、衝撃音、そして、軋む音を伴って
不死のものは彼の鎖に我慢し、
かやうにして恐ろしい眠りに囚はれり。
2.数多の「永劫」の全て、
智慧の、そして、生の喜び全て、
彼の周りに海の如く逆巻く、
彼の小さな球体を除いては
折り畳まれしものが広げられるほどに見えるといふ。
3.そして、彼の不死の生は
夢の如く消え去りぬ
4.ぞっと身震ひしながら、「永劫の預言者」は打ち叩きし
一撃を以てして、彼の北から南の領域まで
鞴と鎚は今は鎮まりけり
落ち着いたしじまに、預言者の声は
連れ去られり、凍て付いた孤独と暗黒の空虚に
「永劫の預言者」とユリゼンは口を閉ぢけり
5.時代の上に時代が重なり時代は横転せし
生から切り離され光は凍り付きし
見るも恐ろしい畸形の形に
ロスは炎を消すのを許しぬ
それから彼は怖い物見たさで背後を振り返りし
しかし、空間は存在によりて合体してをりぬ
彼の魂には恐怖が襲ひし。
6.ロスは死者へ弔ひを以てしてもう見えなくなってしまったものに対して嘆きぬ、
溜息で彼の下では地震が起きたり、
彼はユリゼンが恐ろしい暗黒になったのを見し、
彼の鎖に縛り付けられ、そして、「憐憫」が生じぬ、
7.ぞっとするやうな分裂にして分裂を繰り返し
それといふのも憐憫が魂を分裂せし
永劫に永劫が激痛を伴ひ重なりて
彼の懸崖に注ぎ落ちし瀑布の中には「生」
空虚は「神経繊維」にリンパをして縮こまりぬ
夜の胸奥では不可思議な広がりが
そして、血の丸い球が残りし
「空虚」の上で震へながら
かやうにして「永劫の預言者」は分裂せし
ユリゼンの死した幻視以前に
それといふのも移ろひやすい雲と暗黒の中
下では冬のやうな夜の中
ロスの「奈落」は底知れぬほどに伸びし
そして、見られし、今は曖昧模糊としていたとはいへ、目で
「幾つもの永劫」の、その光景は遠く離れり
分裂が現れし暗黒から。
拡大鏡が「数数の世界」を発見するが如く
空間の「奈落」の底なしの中で、
かやうにして「不死のものたち」の広がりし目は
ロスの暗黒の幻視を見し、
そして、生の血の球は震へながら。
8.生の血の球が打ち震へし
根が枝分かれしながら、
繊維状のもの、風に身悶へしながら、
血、乳、そして、涙の繊維束、
劇痛を伴ひ、永劫が永劫に重なり、
涙と叫びの長さで具現化してをり
一人の女性の打ち震へながら蒼白き形が
彼の死者やうな顔貌の前で揺れ動くなり
9.第一の女性の一瞥でぞっと身震ひせし
全ての「永劫」から、今、分裂せし
雪雲のやうに蒼白く
ロスの顔の前で揺れ動きながら
10.驚愕、畏れ、恐怖、驚嘆、
永劫の数多は石化せし、
第一の女性の形となりて、今、分裂するなり
彼らは彼女を「憐憫」と呼びし、そして、逃げりけり
11.「彼らの周りに強靱な垂れ幕をして、天幕を広げよ
「綱と杭をして『虚無』に縛り付け給へ
さうして『幾つもの永劫』が最早彼らを見ないやうに」
12.彼らは漆黒の垂れ幕を織り始めぬ
彼らは「虚無」の周りに柱の数数を立てし
金の鉤金で柱の数数に留めし
「幾つもの永劫」の無際限の労力をして
一つの織物を織りぬ、そして、それは「科学」と呼びし
(続く)