第六章


1.しかし、ロスは女性を見し、そして、悲しむけり
彼は彼女を抱き締め、彼女は悲嘆に暮れ、彼女は拒みぬ
邪で残酷な悦びの中
彼女は彼の腕から逃げし、しかし、彼は追はぬけり


2.永劫は二人を見しとき身震ひし縮こまりし、
男性は彼に似せて生まれし、
彼自身の写し鏡の像のやうに。


3.一つの時が過ぎさりぬ、「幾つもの永劫」は
天幕を立て始めぬ、
エニサーモンが吐き気を催しとき、
彼女の子宮に「蛆虫」を感じけり。


4.しかし、助けなき中、それは「蛆虫」の如く横たはれり
波打つ子宮をして
存在を作るべく


5.昼の全てはその蛆虫は彼女の胸に横たはりぬ
夜の全ては彼女の子宮の中で
その蛆虫はそれが一匹の大蛇に成長せしまで横たはりぬ
悲痛なシューシューといふ音を立てつつ、毒とともに
エニサーモンの腰にとぐろを巻き、


6.エニサーモンの子宮でとぐろを巻きぬ
大蛇は鱗を脱皮しつつ成長せし
鋭い痛みを以てしてシューシューといふ音が
キーキーと軋むやうな不快な叫び声へと変はり始めぬ
数多の哀しみと暗鬱で刺すやうな陣痛の数数、
魚、鳥、そして、野獣の多くの形、
一人の「幼子」の形で生まれし
以前、蛆虫であった其処には。


7.「幾つもの永劫」は天幕を仕上げ終へし
彼らの陰鬱な幻像をして動揺しぬ
エニサーモンが呻き声を上げながら
一人の男の子供を光に対して産みし時


8.一つの金切り声が「永劫」を劈きぬ、
そして、麻痺せし発作、
「人間」の影の誕生時。


9.彼の堪へ性のない手段で地を掘りつつ、
ヒューヒューと唸り声を上げながら、凶暴な炎に包まれし「子供」が
エニサーモンから出現す。


10.「幾つもの永劫」は天幕を閉ざし
彼らは杭を打ち倒しけり、綱は
永劫の作業の間伸び切ってぴんと張りにけり
最早ロスは「永劫」を見るまじ


11.彼の手で彼は幼子を引っ摑みぬ
彼は彼を哀しみの泉で沐浴す
彼は彼をエニサーモンへと渡しぬ。


(続く)
積 緋露雪

物書き。

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