前歴史における世界開闢物語 四

第四の時代


慌てふためく永劫界のものたちの中にありて
智の賢者と誉れ高く畏れを抱かれし行仙といふものありけり
行仙は、然し乍ら、既に永劫界が滅亡へと踏み入れしことを悟れり
――これは最早時間が流れ出した故に止めやうがなく、吾らは皆老ひぼれ朽ち果てる運命にあり。
一つ目の巨人の轟轟と吐く息には次第に毒が混じりれり。
行仙はそれから永劫界のものたちを安寧させるべく、巨大な天幕を張りしが、
永劫界のものたちは行仙に受け身の体勢しか取れぬのかと詰め寄りし。
行仙は虚空を見上げては答へに窮するばかりなり。
而して、永劫界のものたちはどんなに落ちぶれやうが其処は永劫界のものたち、
一つ目の巨人が吐く毒にはなんともないのであるが、
然し乍ら、一つ目の巨人が轟轟と唸るときに
足下の深淵が逆巻くのが不気味で肝を冷やし、
仮に永劫界に重力といふものが発生すれば永劫界のものたちは
大渦に呑み込まれ崩壊の危機に瀕してをり。
一つ目の巨人も次第に智慧を身に付けながら、
永劫界といふものが君臨する世が生滅なき世故に
其処は非情な退屈に蔽はれし怠惰の延長の緊張感のない終はりなき日常が続くだけの
箸にも棒にも引っ掛からぬ如何様いかさまの日常といふ名ばかりの日常があるのみ。
哀しい哉、それを一番よく知ってゐるのは行仙で、
時間が流れぬといふことは時間を超越したもののみの天下であり、
それは詰まる所、場に執着することなく自在に振る舞ふことで、
永劫界のものといふ優越を未来永劫に亙って保持する筈なのであるが、
存在の悪癖なのか、一部を除いて場に執着し始め、
永劫界のものたちは気に入った場に留まる愚行を始めるなり。
それを一つ目の巨人は三日と立たぬうちに理解し
永劫界の底が抜けた意味を確かに認識したのでありし。
時間の経過とともに物凄い速さで老けゆく永劫界のものたち。
一つ目の巨人は大欠伸をして、
――ふうっ。
と息を強めに吐いて、天幕を吹っ飛ばしてみたのであり。
其処には行仙が虚空を見上げながら立ち姿のまま朽ちた骸と
数多の永劫界のものたちの醜く朽ちた骸の山が堆く積み上がりし。
一つ目の巨人は力の限り轟と叫びてそれら永劫界のものたちの骸を
深淵の大渦に呑み込ませし。
かうして重力が生まれ、第四の時代は終はりぬ
未だ暗鬱な状態。


(続く)
積 緋露雪

物書き。

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