前歴史における世界開闢物語 六

初め、巨大化に巨大化を重ねし大渦は
ぱっと射した光が一瞬刹那に充溢し、
強烈な光を発し
其処は光の大洪水が起きたかのやうに
ブラックホールでは光の瀑布を作り、
然し乍ら、ブラックホールは暗黒ではなく、
シュワルツシルト半径、つまり、事象の地平線のみペラペラの黒色をしてゐるが
その外は溢れ出る光の大洪水の激流に呑み込まりける。


彼方此方で逆巻く光の激流は
留まるところを知らずスターバーストによりて生れし星星にぶち当たりては、
星星を熱し、
全ての星星は火の玉となりにけり。
さうして大渦は瞬く間に灼熱地獄と化し、
光の激流によりて流されし火の玉と化した星星は
次次に衝突をしては合従連衡を繰り返し、
或る処では巨大な恒星を形作り、
また、或る処では衝突によりて四散したものが
塵芥のやうにガス状にまで分解し、
火炎旋風を巻き起こすなり。
而して大渦の膨脹は更に加速し、
指数関数的膨脹を始めるなり。
すると或る臨界に達したところで、
大渦は一気に冷却す。
光の大洪水は影形なく消え失せ
光るは星星のみなり。
物理的には物質は
反物質が僅かばかり消滅するのが早かったから
物質ばかりが存在することになりしと言はれるが
つまり、CPT対称性の破れによりて
物質ばかりの宇宙が存在することになりしと言はれるが、
永劫界のものたちの骸を種にして素粒子が生れしなり。
やがて巨大化に巨大化を更に重ねた大渦は宇宙と呼ばしものへと相転移するなり。


積 緋露雪

物書き。

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