対峙
しかし、私の夜は明けませぬ。
何時の頃からか私の心は真っ暗闇で、
それがちっとも明ける気配がありませぬ。
何ででせうか。
私の闇好きのせゐもありませうが、
それでは済まぬどす黒い私の心持ちにその因があるやうです。
私の心は私をのたうち回らせ、精神を崩壊させ、
私はすっかり廃人同様に成り果てました。
それでも私の心は私を許すまじのままなのです。
執拗に私を追ひ回し、
私が私を抹殺すまで、
それは已まらむのです。
それではと、
私はでんと構へ、
私の邪な心と対峙せねば、
私の心の闇は晴れぬと思ひなし、
一歩も退かぬ心づもりで覚悟を決めたのでありました。
これは私の潔癖症の為もありませうが、
私を正当化したい欲望の為せる業ともいへませう。
詰まる所、私そのものが邪なのです。
邪悪が邪悪に対峙するとき
其処に聖が生れる余地はあるのでせうか。
私といふ邪な存在と私の心といふ邪なものの対峙は
然し乍ら、厳粛極まりないものでした。
私が少しでも隙を見せれば私の心は私を責めるのは
火を見るよりも明らかで
どちらも互ひを凝視するのみで、
長き沈黙が続いたのです。
と、あるとき、
――吾は。
と、お互ひ同時に口を衝いて言葉が零れたのでした。
しかし、勝負はその一瞬でつきました。
私は私の邪な心に呑み込まれ、
私は完全無敵の邪な人間になりました。
それ以来といふもの、
メフェストフェレスよろしく、
悪を成さんと欲するも善をなすところの
悪魔に成り果せたのです。