死引力
不思議なことに自転車に乗ってゐる時など、 心に反して己に向かRead More対峙
しかし、私の夜は明けませぬ。
何時の頃からか私の心は真っ暗闇で、
それがちっとも明ける気配がありませぬ。
何ででせうか。
私の闇好きのせゐもありませうが、
それでは済まぬどす黒い私の心持ちにその因があるやうです。
私の心は私をのたうち回らせ、精神を崩壊させ、
私はすっかり廃人同様に成り果てました。
それでも私の心は私を許すまじのままなのです。
執拗に私を追ひ回し、
私が私を抹殺すまで、
それは已まらむのです。
それではと、
私はでんと構へ、
私の邪な心と対峙せねば、
私の心の闇は晴れぬと思ひなし、
一歩も退かぬ心づもりで覚悟を決めたのでありました。
これは私の潔癖症の為もありませうが、
私を正当化したい欲望の為せる業ともいへませう。
詰まる所、私そのものが邪なのです。
邪悪が邪悪に対峙するとき
其処に聖が生れる余地はあるのでせうか。
私といふ邪な存在と私の心といふ邪なものの対峙は
然し乍ら、厳粛極まりないものでした。
私が少しでも隙を見せれば私の心は私を責めるのは
火を見るよりも明らかで
どちらも互ひを凝視するのみで、
長き沈黙が続いたのです。
と、あるとき、
――吾は。
と、お互ひ同時に口を衝いて言葉が零れたのでした。
しかし、勝負はその一瞬でつきました。
私は私の邪な心に呑み込まれ、
私は完全無敵の邪な人間になりました。
それ以来といふもの、
メフェストフェレスよろしく、
悪を成さんと欲するも善をなすところの
悪魔に成り果せたのです。