散る命を屁とも思はぬ非人の亡霊が今の世に跋扈するとは
散る命を屁とも思はぬ非人の亡霊、
つまり、そいつは最早人間ではないのだ。
非人としか呼びやうのないそいつは、
Zombie(屍生人)の如く墓で眠ってゐたものが
非人の野望に共振してその亡霊が合体して甦り
冷血動物ならまだしもどす黒い野望が
人形(ひとがた)に変化(へんげ)して、
暴君よりも更に冷酷に眦一つ動かさず、
人間が流す血を啜り嘗め、
もっとも血に飢ゑた非人は
人間が流す血を啜り嘗めることで人間になりたいのか。
否、非人には最早人間存在の概念が丸ごと欠落してゐるのだ。
非人の専制政治の暴風が吹く中、
最早、人間の血に不足しない非人は、
人間を戦地に次次と送り込み
死屍累累の屍の頭蓋骨をかち割って頭から噴き出す血を嘗めては
ぺろりと舌なめずりして
まだ、桃色の脳味噌にかぶりつきながら
――へっへっへっ。
と不敵な笑ひを浮かべては
人一人の血の味に飽きたならぽいっと屍を抛り投げ、
次の屍の頭蓋骨をかち割る。
さて、非人とは吸血鬼の眷属なのか。
否、吸血鬼にはまだ人を選ぶといふ理性らしきものがあるが、
非人はそんな理性など持ってゐる筈もなく、
ただ、己の慾のために人を無差別に殺すのだ。
非人は腐敗臭で満ちた部屋に閉ぢ籠もり
することといへば赤紙よろしく
如何に人間を残酷に殺せるかの命令をするばかり。
非人曰く、凄惨で残酷に殺された屍ほど美味いものはないとのこと。
然し乍ら、非人を人間の頂きに選んだのは当の人間なのだ。
つまり、人間とは自分で自分の首を絞めて殺すのが物凄く好きらしい。
非人が長となったところは最早人間は逃げられない。
あるのは死ばかりなり。
而して、
――殺せ、殺せ、非人を殺せ!
といふ憤怒の叫びが人間に湧き上がるかは覚束ないのだ。
といふのも未だにモスコビアでは非人が長として揺るぎない地位にあるからさ。