妄想する日常 二
――吾世界と戦えり。
と何か偉大なことに挑戦したとでもいひたさうにしてやうやっと世界から彼の世へと出立するのである。つまり、此の世は世界転覆を企てたものの屍で死屍累累なのだ。その髑髏を吹き抜ける風音が、これまた胡弓の音色に似て噎び泣くやうに大交響曲の大合唱の如く此の世に永久に鳴り響くのである。それは風音に似てゐて誰もが耳にしたことがあると思ふが、その荒んだ趣は死者の恨み辛みでしかなく、其処には希望の文字はない。あるのは呪詛の言葉のみである。
人間はパンドラの匣を遙か昔、文明誕生と共に開けてはみたが、魑魅魍魎は皆飛び出て残るは希望の筈が、パンドラの匣に残ったのはこの世を只管に呪う呪詛の言葉なのである。文明と反りが合はず何人の人間が文明に抹殺されただらうか。そして、現在、人間は、死すべき運命にある人間よりも遙かに寿命が長いAIが文明を自ら作り出せてしまふところまで文明を発展させたのであるが、その道は良いも悪いもなく、更に発展の速度を加速度的に上げて発展する。
(二の篇終はり)