Categories: 小説

妄想する日常 三

欲に憑かれたもの、自分のSkillの腕を試したいもの、人類のために尽くしてゐると勘違ひしてゐるものなど文明の驀進力は底知れぬ。それはもう、誰も止められぬのだ。それでは個個の人は文明に対する選択は残されてゐるのかといはれれば、残されてゐないといふ外ない。これまで、文明から逃れられた人はゐたかといへば、文明から取り残された人はゐたが、それらの人は既にRetireしてゐる人が殆どで、働き盛りの人たちは否が応でも文明について行くのである。其処から零れ落ちた人は最悪、路上生活を強はられる。その激烈な社会において日進月歩に進化する文明の利器に、然し乍ら振り回されてゐる人がこれまた殆どといはざるを得ない。この文明に更に忙殺される世において逃れるのは自殺以外ないのである。それと、皮肉なことに刑務所が避難所と化すのである。そのために、不合理にも何の関係もない人が犯罪に巻き込まれるといふ悲劇は繰り返される。これらは全て文明からの避難の識しでしかない。そんな渾沌がこれからは日常となると思はれる。既にその兆しは現れてゐて、無差別殺人は繰り返し行はれ、刑務所に入り、死刑になりたいとして、犯人とは何の関係もない人が殺され続けてゐる。これは驀進を已めない文明に対峙するしかない人間社会にとっては必然の出来事なのだ。この不合理を人間社会は内包せざるをないのである。そこで、膨脹するのは文明の利器がそれを励行するのであるが、妄想である。

日常は既に妄想してゐる。この世の森羅万象もまた、妄想してゐる。そして、人間も含めた生き物全て妄想を始めてゐる。一番いけないのは、光速に親和性がある脳なのである。脳を直撃する光速電子回路で刺激する文明の利器は脳に特化して進化するのを已めないだらう。さうすると、妄想は留まるところを知らず、何処までも何処までも膨脹する。

 

(三の篇終はり)

積 緋露雪

物書き。

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